はじめに ― 管理規約は「ただのルール集」ではない

管理規約は、多くのマンションで“存在しているだけの文書”になっているのではないでしょうか。

組合資料の後ろに綴じられ、
引き出しの奥にしまわれ、
理事になったときに初めて開く――

その程度の扱いを受けていることも少なくありません。

しかし、ここで一つ確認しておきたいことがあります。

管理規約は、
単なる生活マナー集でも、管理会社が作った事務書類でもありません。

それは、

  • 理事会や総会をどのように規定し、運営するのか
  • 会計や決算をどのように報告し、承認するのか
  • 専有部分をどのような用途で使えるのか
  • ペットの飼育を認めるのか否か
  • 住戸を事務所や民泊に転用できるのか
  • バルコニーをどこまで私的に利用できるのか

といった、区分所有者が団体として民主主義に則り統治することを定める文書です。

しかもこれは、単なる慣行ではありません。

建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)は、
区分所有者相互間の「管理及び使用」に関する事項を規約で定めることを明文で認めています。

つまり管理規約は、
法律の委任を受けて制定される“自治法規”です。

読んでいなくても拘束される。
同意していなくても効力が及ぶ。

その意味で、管理規約は
マンションにおける“私的な憲法”といっても過言ではありません。

本稿では、この管理規約の法的意味と、見落とされがちな落とし穴について、順を追って整理します。


1.管理規約は法律に基づく「自治法規」である

規約は法的根拠を持つ自治立法

区分所有法は次のように定めています。

「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、規約で定めることができる。」

区分所有法第30条第1項

この条文の意味は重要です。

つまり、
法律が、マンションという共同体に自治立法権を与えているのです。

管理規約は単なる内規ではありません。
法律の委任を受けて定められる“共同体のルール”なのです。


規約の変更は慎重に

規約の変更は特別決議

「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で行う。」

区分所有法第31条第1項

4分の3というのは、通常の普通決議(過半数)よりもはるかに重い要件です。

これは裏を返せば、
一度定めた規約は簡単には直せないということを意味します。

(※令和8年4月1日より、「出席者」の各4分の3の多数の決議に緩和されます)

だからこそ、

  • 最初の設計
  • 改正時の文言
  • 他条文との整合性

が極めて重要になるのです。


2.標準管理規約に準拠していなければ、実務上通用しない

管理規約を考える際に避けて通れないのが、
マンション標準管理規約です。

これは法律ではありません。
あくまで国土交通省が示す“モデル規約”です。

ではなぜ、ここまで重要なのでしょうか。


標準管理規約が事実上の「基準」

マンション標準管理規約は、

  • 管理会社の契約設計の前提
  • 裁判所が判断材料とする基準
  • 金融機関の融資審査の参考資料
  • 分譲時の規約作成の原型

として広く利用されています。

つまり、

標準管理規約から大きく逸脱すると、説明責任が生じる

ということです。

独自規定を設けること自体は可能です。
しかし、その合理性を説明できなければ、紛争時に不利になる可能性があります。


コメント部分に無視できない「重み」

マンション標準管理規約には条文だけでなく「コメント」が付されています。

このコメントは単なる注釈ではありません。
実務では、国の公式見解に近い扱いを受けることがあります。

例えば、

  • 管理者の利益相反
  • 修繕積立金の使途
  • 専有部分と共用部分の区分

などは、コメント部分が解釈の重要な手がかりになります。

条文だけを改正しても、
コメントとの整合性を考慮しなければ、実務で混乱が生じます。


3.改正していない規約は、静かに「時代遅れ」になる

マンション標準管理規約は、社会の変化に応じて改正されています。

近年では、

  • 外部管理者方式の整理
  • 反社会的勢力排除条項の明確化
  • 電磁的方法(オンライン決議)の整備
  • 修繕積立金の適正化
  • 所在不明区分所有者の扱い

などが盛り込まれました。

しかし、分譲当初の規約をそのまま使っているマンションも少なくありません。


規約が古いと問題が起きたときに不利になる

例えば、

  • オンライン総会ができない
  • 管理不全リスクへの対応が規定されていない
  • 反社会的勢力排除条項が未整備

といった問題が生じます。

普段は問題にならなくても、
いざという時に法的空白が露呈するのです。

「新しい管理規約に改正していなかったばかりに
不利な状況になってしまった。」というのだけは
避けたいところですね。


4.法律に反する規定は無効である

ここは極めて重要です。

管理規約は自治法規ですが、
法律より上位にあるわけではありません。

例えば、

  • 区分所有法の特別決議要件を下回る決議で権利制限を定めた場合
  • 民法第90条(公序良俗)に反する内容を定めた場合

その部分は無効となる可能性があります。

つまり、

「規約に書いてあるから正しい」とは限らない

のです。

特に、

  • 使用禁止
  • 多額の違約金
  • 専有部分の過度な制限

などは慎重な検討が必要です。


5.最大の落とし穴は「読まれていないこと」

管理規約の最大の問題は、内容そのものよりも、

「誰も読んでいない」という現実です。

理事も、区分所有者も、
売買時の説明でも、詳細まで検討されないことが多い。

しかし紛争が起きた瞬間、

「規約第〇条に基づき…」

と、その一文が絶対的な意味を持ちます。

静かに存在している規約が、
最終判断基準になるのです。


6.改正は可能だが、実は高度な作業である

区分所有法第31条に基づき、
管理組合は自ら規約改正を行うことができます。

規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。

区分所有法第31条第1項

しかし実務では、

  • 法令との整合性
  • 標準管理規約との整合性
  • 他条文との関連性
  • 将来リスクの予測

といった複合的検討が必要です。

条文は一つずつ独立して存在しているわけではありません。

一条を変えれば、
他条との関係も変わります。

この“構造設計”が最も難しい部分です。

だからこそ、
マンション管理士などの専門家関与が推奨されているのです。


7.管理規約は「未来の紛争」を決める設計図

規約改正は、今困っている問題を解決するためだけに行うものではありません。

10年後、20年後に起きるかもしれない紛争を予防するための設計です。

管理規約は、

  • マンションの憲法であり
  • 共同体の契約書であり
  • 財産権の調整装置である

軽く扱える文書ではありません。


おわりに ― 規約は、静かに、しかし確実に効いてくる

管理規約は普段、存在感がありません。

しかし一度問題が起きると、
最も重い意味を持つ文書になります。

読まれていない一文が、
あなたの権利を制限する。

改正されていない条文が、
将来の紛争の火種になる。

だからこそ、
定期的な見直しと専門的検証が必要です。

本年、2026年4月1日から、いよいよ区分所有法その他のマンション関連法案が施行されます。

今回の改正は、30年に一度の大改正とも言われており、全てのマンションが一斉に改正に取りかかることでしょう。

あなたのマンションは準備できていますか?