はじめに
「うちは管理会社に任せているから大丈夫」
マンションの相談を受ける中で、非常によく耳にする言葉です。
確かに、管理会社がいて、理事会もある。一見すると、問題が起きる余地はなさそうに見えます。
それでも、なぜマンションに関するトラブルや混乱は後を絶たないのでしょうか。
その大きな原因は、
「誰が何を決め、誰が最終的な責任を負うのか」
この点が十分に理解されないまま、マンション運営が行われていることにあります。
1.マンション管理の「主役」は誰なのか
賃貸マンション(オーナーが全戸を所有し貸し出しているマンション)に住んだ経験のある方であれば、
設備の不具合やトラブルが起きた際、管理会社に連絡して対応してもらうのが当たり前だったと思います。
ところが、分譲マンション(住戸ごとに所有者が異なるマンション)で同じ感覚で管理会社に連絡を入れ、
「それは管理会社の業務ではありません」
と返され、戸惑った経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
管理会社でも、理事長でもない
結論から言えば、
マンション管理の主体は、管理会社でも理事長個人でもありません。
マンションの所有者は、区分所有者一人ひとりであり、
その区分所有者全員で構成される団体が「管理組合」です。
区分所有法第3条では、次のように定められています。
区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。
出典:区分所有法
また、マンション標準管理規約第6条でも、管理組合の位置づけが明確にされています。
区分所有者は、区分所有法第3条に定める建物並びにその敷地及び 附属施設の管理を行うための団体として、第1条に定める目的を達成する ため、区分所有者全員をもって○○マンション管理組合を構成する。
出典:マンション標準管理規約
法律上、マンション管理の最終責任を負うのは管理組合であり、管理会社ではありません。
この前提は、実務の現場では驚くほど知られていないのが実情です。
2.管理会社の役割は「決めること」ではない
あくまで「委託された業務」を行う存在
あくまで「委託された業務」を行う存在
管理会社は、管理組合から委託された業務を、契約内容に基づいて実行する存在です。
- 清掃
- 点検
- 会計
- 理事会支援
いずれもマンション管理に欠かせない重要な業務ですが、
意思決定の主体ではありません。
私が管理会社のフロントとして勤務していた頃、上司からこう言われたことがあります。
「俺たちは管理組合の影武者だ。判断材料を出すところまでが仕事だ。」
この言葉は、管理会社の本来の立ち位置を非常によく表しています。
ただし残念ながら、すべての管理会社がこの認識を共有しているわけではありません。中には、自社にとって都合の良い方向へ誘導し、管理組合の主体性を奪ってしまうケースも存在します。
実際、管理会社と設備業者の不透明な関係が問題視された報道もあります。
出典:毎日新聞
3.理事会が「名ばかり機関」になっていないか
理事の仕事は「承認」ではない
理事会の役割は、管理会社の提案をそのまま承認することではありません。
本来、理事会は
- 提案内容を理解する
- 複数案を比較検討する
- 必要であれば立ち止まる
そのための意思決定機関です。
しかし現実には、
専門知識の壁、時間的制約、心理的プレッシャーなどにより、
「よく分からないけれど了承する」という状態に陥りがちです。
以前は、役員を10年、20年と長く務める方も多く見られました。
ところが近年では、固定制から輪番制へ移行する管理組合が増えています。
私の実感として、その背景には次のような要因が重なっています。
- 社会情勢の変化(共働き世帯の増加、定年延長・再雇用)
- 役員の担い手不足(地域コミュニティの弱体化、無関心化)
- 管理会社への依存(引継ぎ不足、負担軽減、責任回避)
管理会社主導で円滑に運営されているケースもありますが、それは「管理組合が管理の主体である」という本来の姿とは異なるものです。
4.だからこそ生まれる「第三者専門家」の必要性
管理会社でも、住民でもない立場
ここで重要になるのが、管理組合側に立つ第三者専門家の存在です。
- 管理会社の提案を分かりやすく翻訳する
- メリットとリスクを整理する
- 感情論から距離を取る
こうした役割を担うために制度化された資格が、マンション管理士です。
管理会社の多くは、管理組合のためを思い、良かれと思って提案をしています。その点を否定するつもりはありません。むしろ、日常業務の大半は誠実な対応でしょう。
ただ、管理会社と管理組合は、あくまで業者と顧客という関係です。
知識や経験の差が大きいため、意図せず認識のズレやトラブルが生じてしまいます。
国家資格として創設されたマンション管理士は、管理組合の立場で助言・支援を行うパートナーとして位置づけられています。
5.専門家が入ると、何が変わるのか
「空気」で決まらなくなる
第三者の専門家が関与することで、
- 意思決定の根拠が明確になる
- 管理組合と管理会社、双方の主張を客観的に整理できる
- 輪番制で役員が交代しても、継続性が保たれる
といった変化が生まれます。
結果として、
「後から揉める管理」から「納得して進める管理」へと転換していきます。
もっとも、マンション管理士であれば誰でも良いわけではありません。
マンション管理士は資格であり、実務経験がなくても名乗ることができるからです。
逆に言えば、資格がなくても管理組合を適切に支援できる専門家であれば問題ありません。ただ、合格率10%前後の難関資格である以上、有資格者が現場で力を発揮してほしいと、実務に携わる立場として感じています。
6.北海道・札幌市のマンションが抱える特殊事情
寒冷地だからこそ、判断ミスが致命傷になる
北海道のマンションは、
- 凍害によるコンクリート等の劣化
- 冬季の除雪管理に関するノウハウ
- 路面凍結や雪庇(※屋根から突き出た積雪のかたまり)による事故防止・事故対応
といった、雪の少ない地域とは異なる前提条件を抱えています。
このため、「全国一律の提案」をそのまま受け入れることにはリスクがあります。
実際、昨年当事務所に外部管理者を依頼されたマンションでは、
首都圏の管理会社と交渉を進めたものの、
北海道・札幌市特有の事情が理解されず、話が頓挫したと聞いています。
専門家を選ぶ際には、
その地域の事情を理解しているかどうかを必ず見極めてください。
おわりに
管理の多くは任せていい。だが、決めるのは管理組合
管理組合の運営には、膨大な時間と労力が必要です。
役員の担い手不足が進む中、負担を軽減しようとすること自体は間違いではありません。
ただし、意思決定だけは管理組合が行う必要があります。
なぜなら、マンションを購入した時点で、それはあなたの所有物であり、
あなた自身がその責任を持つ所有者だからです。
それが、マンションという共同財産を守り続ける唯一の方法です。
心配はいりません。
困ったときは、マンション管理士という選択肢があります。

