はじめに

マンション管理士に「何を期待すればよいのか」

前回の記事では、「マンション管理士とは何か」について解説しました。
管理人とはまったく別の存在であり、管理組合側の専門家であることをご理解いただけたと思います。

では次に、こんな疑問が浮かんでくるのではないでしょうか。
「マンション管理士って、具体的に何をしてくれる人なんですか?」

実はここに、マンション管理士と管理組合の間で生じやすい“ズレ”があります。今回は、そのズレについて、できるだけ正直にお話ししたいと思います。

1.国土交通省が定めるマンション管理士の役割

「助言・指導」とはどういう意味か

マンション管理士は、法律上「専門的知見をもって、管理組合に対し助言・指導を行う」と定義されています。

ここで大切なのは、マンション管理士には管理組合を指揮・命令する権限はないという点です。

マンション管理士は、
・こうした方がよい
・この方法にはリスクがある
・法律上はこうなっている

といったことを伝える立場であり、
最終的に決めて動くのは、あくまで管理組合なのです。


2.マンション管理士に「管理組合を指導する権限」はない

時々、こんな評判を聞くことがあります。
「あのマンション管理士は、このマンションの実態を理解していない」
「言っていることは理解できるが、今すぐ現状を変更できない」

マンション管理士は国家資格であり、マンションを適正に管理する使命を持っていることから、正義感で色々な助言・指導をしているのでしょう。気持ちはよく分かります。

しかし、マンション管理士は管理組合の上司ではありません

理事会や総会で決定する主体は、常に管理組合自身です。専門家ではありますが、理事会や総会では区分所有者が集まって多数決による決議をしており、マンション管理士に議決権はありません。

マンション管理士は、ハンドルを握る人ではなく、ナビゲーションをする存在だと考えていただくと分かりやすいかもしれません。


3.管理組合が本当に求めているのは「助言」だけではない

管理会社への「全部委託」

一方で、管理組合側の本音はどうでしょうか。

多くの管理組合では、
「できることなら、全部まとめてお願いしたい」
「専門的なことは、よく分からない」

という気持ちがあるのが現実ではないでしょうか。

これは決して怠慢ではありません。
理事はほとんどがボランティアであり、
本業や家庭を抱えながら役員を務めているのです。

管理会社との契約には「一部委託」と「全部委託」がありますが、圧倒的に「全部委託」が多く(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)、管理会社に対して包括的な安心感を求めていることが多いように思われます。


4.管理組合にとっての“従来のパートナー”は管理会社

その結果、管理組合が頼りにするのは、やはり管理会社になります。

管理会社は、
・日常管理
・会計
・理事会運営の補助

などを包括的に担ってきました。

長年の付き合いもあり、管理組合にとっては「一番身近な専門家」です。

そのため、マンション管理士に対しても管理会社と同じような役割を無意識に期待してしまうことがあります。

ここに、マンション管理士と管理組合との間にズレが生まれます。


5.独立系マンション管理士が直面する現実

「助言だけ」では選ばれにくい理由

多くの独立系マンション管理士は、区分所有法や標準管理規約などの知識を活かし、管理組合に助言することを目指しています。

しかし現実には、「助言だけ」で顧問契約に至るケースは多くありません。

管理組合からすると、
「具体的に、何をやってくれるのか」
「自分たちの負担は減るのか」
が見えにくいからです。

これは、マンション管理士の能力の問題ではなく、
役割の理解がまだ十分に浸透していないことが大きいと感じています。


6.実際に選ばれているマンション管理士の姿

地道な活動が信頼につながる

実際に管理組合から信頼を得ているマンション管理士の多くは、
助言だけでなく、より現場に近い活動も行っています。

例えば、マンション管理士の第一人者であるプロナーズ代表理事の川原一守先生は自主管理マンションの事務作業の補助をしています。

北海道マンション管理士会所属の橋本敏明先生は自らあるマンションの管理員業務を行っています。

一方、マンション管理センター作成の長期修繕計画の記入代行や、区分所有者個人に対する相談業務を行っています。

こうした地道な関わりを通じて、「この人は、こちらの立場で考えてくれる」と認識されていきます。

その結果として、ようやく“管理組合のパートナー”として受け入れられるのです。


7.マンション管理士が目指すべき立ち位置

「指導者」ではなく「伴走者」

マンション管理士は、管理組合を上から導く存在ではありません。同じ方向を向き、一緒に悩み、一緒に考える存在です。

管理組合が主役であり、マンション管理士はその伴走者

その関係が築けたとき、マンション管理士は本当の意味で力を発揮できるのだと思います。


おわりに

マンション管理士と管理組合の「ちょうどよい関係」

マンション管理士がしたいことと、管理組合がしてほしいことは、確かに最初はズレています。

しかし、そのズレを理解した上で関わることができれば、マンション管理士はとても心強い存在になります。

「全部任せる人」でもなく、「口出しする人」でもない。

一緒に考える専門家として、マンション管理士を知っていただけたら幸いです。