はじめに:なぜ今、「修繕履歴」が必要なのか?
マンションを所有し、住み続けるということは、その建物の「共用部分」を適切に維持管理していく責任を負うということです。しかし、多くの管理組合様が直面するのが、「いつ、何を、どこまで直したのか」という過去の記録の曖昧さです。
特に築年数の経過したマンションでは、修繕の必要性が高まる一方で、過去の修繕内容が把握できていないために、「本当に今、この修繕が必要なのか?」「前回の修繕から何年経っているのか?」といった疑問に明確に答えられないケースが多々あります。
修繕履歴を作成することは、実は法令で義務付けられているわけではありません。しかし、マンションを「適正に管理し、資産価値を維持・向上させる」ためには、この修繕履歴は非常に重宝される、いわば「建物のカルテ」となるのです。
本コラムでは、共用部分の修繕履歴を作成することの重要性、具体的な作成方法、そして適切な管理を継続するための秘訣について、マンション管理士の視点から詳しく解説していきます。
セクション1:修繕履歴は「建物の記憶」 – なぜ作成すべきか?
✅ 義務ではないが、未来のための必須資料
「管理組合で修繕履歴の作成を義務化された」という話は聞きません。ですが、マンションを長期にわたって健全に保つためには、修繕履歴は長期修繕計画の策定・見直しにおいて欠かせない基礎資料となります。
皆さんのマンションは、次回の大規模修繕に向けて、積立金は足りていますか?計画通りに修繕サイクルを回せていますか?
修繕履歴は、以下のような点で、管理組合の運営に絶大なメリットをもたらします。
- 1.正確な修繕サイクルの把握: 前回の屋上防水工事から何年経過したか?外壁タイルの補修はいつ行ったか?これらの記録があることで、次回修繕までの適切な期間を見積もることができます。計画と実績のズレを修正し、計画の精度を飛躍的に高めます。
- 2.適切な工事内容の選定: 前回の修繕で採用した工法や材料が、予想よりも早く劣化した場合、その原因を分析し、次回はより耐久性の高い工法を選択するヒントになります。「前回の反省」が活かされることで、修繕の質が向上します。
- 3.積立金の適正化: 過去の工事実績として、「いつ、どの部分を、どのくらいの金額で修繕したか」が明確であれば、将来的な工事費用の予測精度が向上します。これにより、修繕積立金の設定額が適正かどうかを判断する重要な根拠となります。
セクション2:最低限押さえたい!修繕履歴に記録すべき4つの要素
では、具体的に修繕履歴には何を記録すべきでしょうか?最低限、次の4つの情報を網羅した資料を作成することをお勧めします。これらの情報は、次回以降の修繕計画や業者選定の「ヒント」となる、最も重要なデータです。
要素1:📅 「いつ」(実施時期・期間)
修繕工事の完了年月日を明確に記録します。単に年度だけではなく、月日まで正確に記録することで、次回修繕までの経過年数を正確に把握できます。
要素2:📍 「どの部分を」(修繕箇所・工事内容)
具体的な修繕箇所(例:屋上防水、北側外壁、〇号機エレベーターの制御盤)と、どのような工事を行ったかを詳しく記録します。特に、使用した材料の名称や工法(例:ウレタン防水通気緩衝工法、アクリルシリコン系塗料など)も記録しておくと、専門的な検討時に役立ちます。
要素3:👤 「どこの業者で」(施工業者・設計事務所)
工事を請け負った施工業者の名称、連絡先、そして設計や監理を行った設計事務所の名称も記録します。
- メリット: 万が一、工事後に不具合が発生した場合の問い合わせ先が明確になります。また、過去の施工実績を評価し、次回も依頼するかどうかの判断材料になります。
要素4:💰 「どのくらいの金額で」(工事費用)
契約金額の総額を記録します。できれば、見積書の内容に基づき、項目ごとの内訳金額も合わせて保管することで、次回修繕時の費用対効果を検証する際の貴重なデータとなります。
セクション3:【実践編】修繕履歴をどう作るか?
修繕履歴は、難しい専門書類である必要はありません。重要なのは「継続性と活用しやすさ」です。
📌 作成のポイント
- エクセルなどの表計算ソフトを活用: 一覧表形式で、上記の4要素を列として整理し、工事ごとにデータを追加していくのが最も効率的です。
- 根拠資料の整理: 修繕履歴に記載した事項の根拠となる資料(契約書、工事請負契約書、竣工図、完了報告書、支払い明細など)は、いつでも参照できるようにファイリングし、デジタルデータとしても保管しましょう。
- 過去の遡及調査: 新築時や過去の大規模修繕の情報が不明な場合は、管理会社や自治体(札幌市などの建築指導課)、当時の施工会社などに問い合わせて、可能な限り情報を収集しましょう。
💡 見落としがちな記録事項
大規模修繕工事だけでなく、以下のような日常的な修繕や応急処置も記録に残すことが大切です。
- ポンプや給水設備の小規模な交換・修理
- 駐輪場や集会室などの付属施設の修繕
- 突発的な漏水事故への対応
- 特定の箇所(例:給排水管)の定期的な点検結果
これらの記録が、次の本格的な修繕のタイミングや範囲を決定する手がかりとなります。
セクション4:修繕履歴を活かした適切なマンション管理へ
修繕履歴を作成する最終目的は、より質の高い、無駄のないマンション管理を実現することです。
🏢 地域と密接に関わる修繕計画
例えば、北国の中心都市である札幌市のマンションであれば、凍害対策や融雪設備、厳しい寒冷地特有の建材劣化への配慮が不可欠です。
過去の修繕履歴に、これらの地域特性に起因する修繕(例:凍結による配管破裂の修理、屋根からの落雪対策工事)の記録があれば、長期修繕計画において、積雪・寒冷地特有の項目をより手厚く見積もることができます。
修繕履歴は、ただの過去の記録ではなく、そのマンションが持つ「地理的・構造的特性」を浮き彫りにする鏡なのです。
🔗 長期修繕計画への反映
作成した修繕履歴は、必ず長期修繕計画の定期的な見直しに反映させてください。
- 実績対比: 計画上の修繕時期と、実際の修繕履歴を比較する。
- 費用の妥当性検証: 計画上の修繕費用と、実際の工事費用を比較する。
- 計画の修正: 計画と実績の差異に基づき、次の修繕項目・時期・費用を見直し、修繕積立金の妥当性を再評価する。
このPDCAサイクルを回すことで、マンションの管理は常に最適化され、結果としてマンションの資産価値維持に繋がります。
終わりに:管理組合運営の課題解決には「マンション管理士」の活用を
マンション管理は、専門的な知識、過去の事例分析力、そして何よりも公平な第三者の視点が必要です。
修繕履歴の作成や、それを活用した長期修繕計画の見直しは、管理組合の理事の皆様だけでは負担が大きい作業になりがちです。
- 「過去の資料が散逸していて、どう集めたら良いかわからない」
- 「記録の仕方が専門的すぎて判断できない」
- 「現在の長期修繕計画の妥当性を第三者的にチェックしてほしい」
このようなお悩みを抱えていらっしゃるなら、ぜひマンション管理士の活用をご検討ください。
マンション管理士は、管理組合の運営、大規模修繕、そして法的な問題まで、幅広くサポートする国家資格者です。
私たちは、過去の資料を整理し、必要な情報を抽出して修繕履歴の作成をサポートいたします。また、その履歴に基づき、札幌市の気候特性なども考慮に入れた、現実的で持続可能な長期修繕計画の見直し・策定を支援します。
適切な修繕履歴の作成は、適切な管理への第一歩です。
貴組合のマンションが、これからも長く、安全で快適な住まいであり続けるために、私たちマンション管理士がそのお手伝いをさせていただきます。
ご相談・お問い合わせは、お気軽にどうぞ。

